消化器内科
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おなかが痛い(腹痛)

腹痛の場所がひとつのヒントになります。腹部内臓のシェーマを参照ください。腹部を小さくは9つ、大きくは4つに分けて考えることが多いので、それぞれの対応する臓器の中で頻度の多い疾患、そして見逃してはいけない疾患を想起します。
1. 右季肋部 肝臓・胆道系疾患、胸膜疾患
2. 心窩部部痛 食道疾患、胃十二指腸疾患、心疾患、膵疾患
3. 左季肋部 脾臓疾患、胸膜疾患、心臓疾患、膵疾患小腸・大腸
4. 右側腹部 疾患、胆道疾患、腎臓・尿路系疾患
5. 臍周囲 小腸疾患、大動脈疾患
6. 左側腹部 小腸・大腸疾患、腎臓・尿路系疾患、脾臓疾患
7. 右下腹部 小腸・大腸疾患、虫垂炎、尿路系疾患、精巣及び付属器疾患
8. 臍下部 小腸・大腸疾患、婦人科系疾患、膀胱疾患
9. 左下腹部 小腸・大腸疾患、尿路系疾患、精巣及び付属器疾患 (動脈疾患、腹膜炎などは場所は様々です)
腹部内臓シェーマ
まずは上記のような疾患を想起しながら、さらに詳しくお話しを聞いて疾患を絞り込んでいきます。さらにアレルギーの有無、常用薬の内容、既往歴(過去にかかったあるいは治療中の病気)、食事内容等も伺います。その上で腹痛の原因検索の為の検査を計画していきます(レントゲン、血液検査、心電図、腹部超音波検査、上下部消化管内視鏡検査等)。お話を聞いただけ、あるいは検査をしたら一発で診断ということは逆に少なく、診断に難渋することもしばしばあります。腹痛でお困りの方は是非ご相談ください。

むかむかする、吐いてしまう(悪心・嘔吐)

一般に「むかむかする、吐いてしまう」という症状がある場合の7割は消化器の病気という報告もあり、まずは消化器の疾患なのか、消化器以外の疾患なのかが大事なポイントです。消化器以外の疾患の中には頻度は少ないものの緊急性を有する脳疾患(くも膜下出血、脳出血、髄膜炎等)や、心臓疾患(心筋梗塞等)もありますので、お話をきいて鑑別していきます。その際下記の随伴症状がないかというのは大事なポイントです。
急に始まった頭痛はないか、腹痛の有無はないか、胸痛はないか、吐いた物に血は混ざっていないか、このような場合には早めにかかりつけ医や、もよりの病院を受診してください。吐き気には吐き気を感じる中枢を刺激して出る嘔吐と各臓器が刺激されて出る嘔吐があります。一般的に嘔吐をきたす疾患について下記に記します。※妊娠初期に70%の方にみられる悪阻(つわり)は入れていません。

吐き気を感じる中枢を刺激する嘔吐

脳出血、クモ膜下出血、髄膜炎、薬物、アルコール、食中毒、精神的嘔吐

各臓器が刺激されて出る嘔吐

メニエール病、中耳炎、乗り物酔い、胃・十二指腸潰瘍、胃がん、虫垂炎、等多くの消化器疾患狭心症、心筋梗塞、尿路結石、甲状腺機能亢進症、糖尿病、薬剤の副作用

胸やけ・げっぷがでる

胸やけとは食事や姿勢変化(横たわる、前かがみになるなど)で増強する胸の真ん中部分のやけるような感じです。胸やけを感じる場所が実際胸部であり、さらに「酸っぱい液が上がってくる」という症状がある場合は逆流性食道炎の可能性が高く、内視鏡検査が望まれます。一方みぞおちの「胃もたれ」等の胃部症状を「胸やけ」として訴えられる方も多いと言われています。胸やけを感じる場所がみぞおちの場合は胃や十二指腸の症状の可能性が高く、いわゆる消化不良という状態の可能性があります。消化不良症状がでる器質的疾患(その臓器に明らかな異常がある疾患)として 胃・十二指腸潰瘍、急性胃炎、胃がん、胆石症、慢性膵炎などがあります。これらの器質的疾患ではないことが確認されたら機能性(臓器には明らかな異常が見られない)胃腸症という診断になります。いずれにせよ、内視鏡検査及び内服加療が望まれますので、消化器内科への受診をおすすめします。

消化器系

逆流性食道炎、食道裂孔ヘルニア、食道狭窄、食道痙攣、食道癌、急性・慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃癌

消化器以外

胸膜炎、肺癌、虚血性心臓病

飲み込みにくい、喉がおかしい(嚥下困難)

のどに食べ物がくっついて飲み込めないような感覚です。飲み込むとすぐにのどに食べ物が引っ掛かる感じがある場合、飲み込んだ後に咳等も見られる場合は飲み込みに関与する神経・筋の異常の場合があります。
球麻痺、重症筋無力症、皮膚筋炎等
一方飲み込みには問題ないのですが、なにか喉にひっかかるという症状が続く患者さんは多くみられます。
咽喉頭感異常感、咽頭・喉頭炎、亜急性甲状腺炎、逆流性食道炎等
声がかすれる、声質が変わった(嗄声)も見られる場合は声帯ポリープや喉頭癌等の器質的異常の可能性があり耳鼻科受診が望まれます。また食道の疾患が原因であることも多く、進行性である場合は早期に消化器内科を受診してください。
食道裂孔ヘルニア、食道憩室、食道癌等

おなかがはる(腹満感)

「おなかが張る」といった場合、張る原因はどこにあるのかをまず考えます。
原因としては、下記の4つの原因が考えられます。
1. 消化管とくに小腸~大腸に気体や液体がたまる状態
消化管は毎日7Lの消化液を分泌して吸収していますので、その機能が低下する場合には、容易に腸管内に液体がたまります。またごはんを食べる際に無意識に空気を嚥下する病態(呑気症)や食べたものを消化する際にはガスの発生がありますので、腸管の通過障害があれば液体はもちろん気体も腸管内に溜まることになります。
呑気症、便秘、脾弯曲症候群、過敏性腸症候群、腸閉塞、腸捻転、大腸癌等
2. 腹水貯留
低栄養、腹膜炎、心不全、肝硬変、悪性腫瘍等
3. 臓器の腫大
腫瘤、肝臓、脾臓、子宮の腫大、内臓器の悪性腫瘍等
4. 肥満

便秘

頻度は2~28%とされ、従来の定義は「排便が週3回未満」とされます。しかし便秘を「排便に力むこと」や「思うように排便できないこと」と考えられる方もおり、排便回数が少ないことが便秘と考えていたのは3割に過ぎなかったとの報告もあります。そこで患者さんの言われる『便秘』が具体的にどのようなものなのかをお聞きします。「排便に力むこと」(排便怒責)、「硬い便」、「排便しないけれども便意が続く」(便意切迫)、「排便頻度の少なさ」、「排便後の残便感」など最近発症した便秘で、腹痛、体重減少、血便、発熱、嘔気嘔吐等が見られる場合は下記疾患を念頭に問診を進めます。このような症状がある方は早めに消化器内科を受診されることをお勧めします。
大腸癌、腹膜炎、腸閉塞
便秘
排便回数が少ないいわゆる便秘の原因としては下記の分類が使われます。
・器質的便秘:大腸の内腔狭窄や閉塞を原因とするもので早急に精査が必要です。
・機能的便秘:消化管の働きの低下による最も多く遭遇する便秘であり、原因不明の場合と、基礎疾患に続発するものに分けられます。
生活習慣(運動不足、水分摂取、食物繊維の不足)、お薬(慢性的な便秘薬の使用、鎮痛薬、鉄剤、制酸剤、抗コリン薬)、うつ病、過敏性腸症候群、骨盤底機能障害、甲状腺機能低下症、低カリウム血症、肛門・直腸病変、機械的閉塞等
近年は大腸癌が増えており、比較的急に便秘が出てきた方は是非当院へご相談ください。また慢性的に便秘がある方(慢性的に便秘薬使用されている方も含めて)、「排便時過度に力まないと排便できない」、「硬い便」、「排便しないけれども便意が続く」、「排便後も便が残っているような感じある」などの症状がある方もご相談ください。

便秘の診断基準

便の性状をブリストル便形状スケールを用いて分類・評価し、診断します。
タイプ3〜5であれば問題はないですが、もっとも理想的なのはタイプ4のバナナ状の便です。
普段から、ご自分でも便の形状をチェックしておくことをおすすめします。
ブリストル便形状スケール

下痢

急性下痢(2週間未満継続する下痢)と慢性下痢(4週以上継続する下痢)に分けられます。むろん慢性下痢は初期には急性下痢として現れますが、時間がたっても消失しないものになります。
下痢

急性下痢

急性下痢の多くは自然寛解します。迅速に精査を行う必要のあるものは、脱水を伴う場合、発熱、血便、腹痛、体重減少を伴うものです。とくにご高齢の方は容易に脱水をきたすことがありますので、注意が必要です。
ウイルス性胃腸炎、細菌性腸炎、食中毒、薬剤、過敏性腸症候群

慢性下痢

慢性下痢には、腸管の機能異常によるもの、感染、薬剤、腫瘍によるもの等があります。
過敏性腸症候群、糖尿病、甲状腺機能亢進症、乳糖不耐症、薬剤、膵機能不全、胃切除後、小腸リンパ腫、大腸癌、虚血性腸炎、細菌性腸炎

血を吐く(吐血)

吐血とは血液を吐くことです。吐いた時に血液が混じることも含めます。肺や気管からの出血で、吐血とは区別しますが、区別がつきにくいこともあります。吐いたものが血液中心であれば食道、胃からの出血が最も考えられ、緊急に病院受診が必要です。少量の血液もしくは黒褐色の血液、の場合は胃・十二指腸潰瘍に加えて、急性胃粘膜病変、マロリーワイス症候群、逆流性食道炎などが考えられます。マロリーワイス症候群の場合は吐血前に嘔吐を繰り返していることが特徴でアルコールにより誘発されることが多い疾患です。吐いた血液が少量であれば、緊急性は低くなりますが、上部消化管内視鏡検査にて診断をいたしますので、消化器科への受診が望まれます。
胃潰瘍、肝硬変に伴う食道静脈瘤破裂、胃・十二指腸潰瘍に加えて、急性胃粘膜病変、マロリーワイス症候群、逆流性食道炎

血便(下血)

便に血液が混じることで、黒色~赤い便まであります。また鉄剤内服では便が黒くなることが多いので、内服薬の確認は必要です。
消化管(口から肛門までの管:口腔→食道→胃→十二指腸→小腸→結腸→直腸→肛門)の中で、出血する部位が十二指腸より口側は吐血、肛門側は下血として症状があらわれやすく、下血の中でも小腸や深部大腸(大腸の前半)では黒色便、直腸病変や痔疾患は黄色便とともに新鮮血がみられることが多いとされます。どちらにしても内視鏡検査が必要ですので、消化器科へ受診が望まれます。
胃・十二指腸潰瘍、小腸毛細血管拡張症、大腸憩室出血、虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、痔核、直腸潰瘍、大腸癌

体重減少

体重減少には実際ごはんは食べているのに、体重が減るのか、食べるごはんの量が減って体重が減るのかで考えられる疾患は異なります。ダイエットもそうですが、精神的に落ち込み、食欲がない方、食欲はあるのだが、口腔内の問題で食べるご飯の量が減り、体重が痩せる方もおられます。一方しっかり食べているのだが、体重がやせてきたという場合は消化器の腫瘍を含めたなんらかの異常が隠れている場合があります。
糖尿病、うつ病、摂食不良(歯の状態不良、入れ歯が合っていない、認知症、味覚障害等)、薬剤(抗認知症薬、強心剤、利尿剤、鎮痛剤等)、甲状腺機能亢進、悪性腫瘍(消化器が多い)、心不全、神経性食思不振、吸収不良、慢性感染症、副腎機能不全、肺気腫

胃食道逆流(逆流性食道炎)

胃食道逆流により引き起こされる食道粘膜障害と煩わしい症状のいずれかあるいはその両者を引き起こす疾患であり、内視鏡検査で食道粘膜障害を有する「逆流性食道炎」と、症状のみを認める「非びらん性逆流症(NERD)」に分類されます。

症状

食道に酸性の胃液の逆流が頻回に起こると、食道粘膜がダメージを受け、胸やけや呑酸(口の中に酸っぱい液や苦い液がこみ上げること)、みぞおちの不快な感じが起きます。

原因

男性では中年以降、女性は高齢者(特に腰の曲がった人)に多くみられます。食物を大量に食べた後や、高脂肪食や甘いものを食べた後に起こりやすくなります。中高年になると増えてくる食道裂孔ヘルニアも逆流の原因となります。

診断

診断には内視鏡検査が一番適しています。

治療

1. 内科的治療としては胃酸分泌を抑える薬として、H2受容体拮抗薬(H2RA)と、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の2種類があります。急に辞めると症状が再燃することが多く、減量もしくは中止は慎重に検討します。いずれの薬も副作用は少なく、長期間にわたり服薬する事ができます。その他胃液を小腸に送り込むために,胃腸の動きを活発にする消化管運動賦活薬も処方することもあります。
2. 外科的治療は薬物治療を長期に続けても好転しない場合には、考慮します。食道裂孔ヘルニアが逆流の大きな原因になっている場合が多いので、逆流しないように裂孔ヘルニアの修復と緩んだ噴門を締め直す噴門形成術が行われます。
3. 生活習慣の工夫としては食事の際は、食べ過ぎないこと、脂っこい物を過剰にとらないことを心がけましょう。また,食べてから3時間くらいは横にならないこと。就寝時は、座布団を2〜3枚敷き布団の下に入れて上半身を高めにすると、胃液の食道への逆流が防げます。また肥満はお腹の圧力を上昇させ、胃から食道への逆流を起こしやすくするので、肥満がある方はダイエットが望まれます。
下記の項目で合計8点以上の方は、逆流性食道炎の可能性がありますので受診されることをおすすめいたします。
ない
0点
まれに
1点
時々
2点
しばしば
3点
いつも
4点
胸やけがしますか?
お腹が張ることがありますか?
食後に胃が重い、胃がもたれることがありますか?
思わず手のひらで胸をこすってしまうことがありますか?
食べた後、気持ちが悪くなることがありますか?
食後に胸やけがおこりますか?
のどの違和感(ヒリヒリなど)がありますか?
食事の途中で満腹になることがありますか?
ものを飲み込むと、つかえることがありますか?
苦い水(胃酸)が上がってくることがありますか?
ゲップがよく出ますか?
前かがみをすると胸やけがしますか?
合計  

過敏性腸症候群

過敏性腸症候群(IBS)とは、癌など明らかな原因がなく、いろんな原因で起こる腸の機能異常で、長期間続く腹痛や便通異常が見られるものです。
原因としては諸説があります。具体的には感染性腸炎、ストレス、腸内細菌、神経伝達物質、知覚過敏、遺伝などですが、明らかな原因は特定されていません。
疫学としては2割5分程度の方にみられ、消化器内科受診患者の3割という報告もあります。実際当院の外来患者さんでも多くの患者さんがおられます。多くは大腸癌を心配されて受診され下部消化器内視鏡検査を施行しても特別な所見はなく、「ではこの症状はどうしてでしょうか」「この症状をどうにかしてください」と言われる方もおられます。ネットを調べて「過敏性腸症候群だと思います」と言って受診される方もおられます。

診断

腹痛や便通異常が3ヵ月の間見られるもの(間欠的のも含めて)がまずIBSを疑われます。
器質的疾患の鑑別(大腸癌や炎症性腸疾患など)を経てIBSと診断されます。

IBSのRome IV基準

腹痛が、最近3ヵ月のなかの1週間につき少なくとも1日以上を占め、下記の2項目以上の特徴を示す。
1. 排便に関連する
2. 排便頻度に関連する
3. 便形状(外観)に関連する
少なくとも診断の6カ月以上前に症状が出現し、最近3ヵ月は基準を満たす
(Lacy BE. et al Gastroenterology 2016:150: 1397-1407)

治療

IBSは下痢型、便秘型、混合型の3型にわけられ、治療方法も異なります。
食事療法(脂質、カフェイン類、香辛料を多く含む食品やミルク、乳製品などを控える)、食物繊維の摂取、運動、内服(高分子重合体、消化管運動機能調節薬、痛みには抗コリン薬、プロバイオティクス、下痢型には5-HT3拮抗薬、便秘型には粘膜上皮機能変容薬、胆汁酸トランスポーター薬、非刺激性下剤、頓服としては刺激性下剤、また一部の漢方薬も効果的とされていますが、決め手となるものはまだないというのが現状で、それぞれの患者さんの状態を見ながらそれぞれの医師は加療方針を考えているのが現状ではないかと思います。

機能性胃腸症(機能性ディスプペシア)

機能性ディスペプシア(FD)とは「症状の原因となる器質的疾患がないにも関わらず、慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」です。
具体的な症状としては1.食後膨満感、2.早期満腹感、3.心窩部痛、4.心窩部灼熱感があげられます。

疫学

日本人のFDの有病率は1~2割とされる。
FDの原因に関しては胃・十二指腸運動機能異常、内臓知覚過敏、心理社会的因子、胃酸分泌、遺伝的要因、生育環境、感染性胃腸炎の既往、ライフスタイル、消化管の微小炎症などの多因子が複合的に関与しているものと考えられています。

診断

まずは十分な問診、腹部超音波検査、上部消化器内視鏡検査、血液検査などを行い上記の1.~4.の症状をきたす器質的疾患の除外を行います。

治療

FDの患者さんは充分な睡眠が確保されておらず、食事時間不規則、野菜不足などの報告もあり、生活指導、食事指導(高カロリー、高脂肪食を避ける)。内服としては酸分泌抑制薬、消化管運動機能改善薬、漢方薬などが効果があるとされていますが、実際は患者さん個々で異なります。

炎症性腸疾患(IBD)

炎症性腸疾患(IBD)は、慢性あるいは寛解・再燃性の腸管の炎症性疾患を総称し、一般に潰瘍性大腸炎(UC)クローン病(CD)の2疾患を指します。
潰瘍性大腸炎は大腸粘膜を直腸側から連続性に侵ししばしばびらんや潰瘍を形成する原因不明のびまん性特異性炎症です。
クローン病は非連続性に分布する全層性肉芽腫性炎症や瘻孔(ろうこう:炎症などにより組織に空いた穴)を特徴とする原因不明の慢性炎症性疾患です。
ともに厚生労働省の指定難病とされている疾患です。

原因・症状

炎症性腸疾患は、遺伝的な素因に食事、感染などの環境因子が関与して腸粘膜の免疫系の調節機構が障害されて炎症が生じるというのが現在考えられていますが、いまだに原因は解明されていません。両疾患とも若年で発症し、腹痛、下痢、血便などの症状を呈し、再燃と寛解を繰り返しながら慢性に持続するため日常のQOLが低下することが多く、また、関節、皮膚、眼などに腸管外合併症をきたすこともあります。

疫学

疫学調査からは潰瘍性大腸炎約22万人以上、クローン病約7万人と推察され、増加傾向にあると思われていますが、正確な患者数は不明です。好発年齢はともに10代後半~30代前半です。しかし高齢での発症の方も決してまれではなく、高齢化社会になり、有病者は次第に高齢者層へ移行しつつあることから高齢者の炎症性腸疾患患者を診ることは決して稀ではありません。

診断

繰り返す腹痛、下痢の場合はとくに若年者の場合は疑います。鑑別は感染性腸炎が挙げられます。大腸内視鏡検査による診断が一般的です。

治療法

治療の原則は、潰瘍性大腸炎、クローン病ともに炎症の強いときには、炎症を抑え免疫異常を是正する5-アミノサリチル酸製剤、ステロイドなどの薬剤を用いて、炎症をすみやかに治めます。クローン病では栄養療法と薬物療法を組み合わせたコンビネーション療法が中心となります。また抗TNF-α抗体という新しいタイプの炎症を抑える薬剤が使用されるようになり、優れた治療効果がみられています。
しかし大事なのは、その後の再燃を防ぐことです。そのためには、精神的・身体的ストレスを避けること、また、脂っこい食物や香辛料・アルコールなどの刺激物を控え、十分な睡眠をとり、疲れをためないことも重要です。再燃しやすい場合や内科的治療で効果がない場合や、重い合併症が生じた場合には手術が選択されることもあります。定期的な検査を受けることでがんを早期発見できることが報告されていますので、長期に経過されている患者さんは内視鏡検査を定期的に受けることが重要です。

大腸がん

大腸は消化吸収された残りの腸内容物をため、水分を吸収しながら大便にするところです。大腸粘膜のあるところではどこからでもがんができますが、日本人ではS状結腸と直腸が大腸がんのできやすい部位です。
罹患患者数15万人(1位)、死亡者数5万人(2位)です。年齢別にみた大腸がんの罹患率は、50歳代付近から増加し始め、高齢になるほど高くなります。大腸がんの死亡率は男女とも1970年代から急増しており、脂肪摂取量の増加と関連があると考えられています。がんによる死亡の原因として、大腸がんは男性で第3位、女性で第1位を占めるまでになっています。
直系の親族に同じ病気の人がいると大腸がんにかかりやすいと考えられています。生活習慣では、肥満、飲酒や加工肉(ベーコン、ハム、ソーセージなど)、喫煙習慣は大腸がんリスクとされています。
大腸がん罹患数の推移

症状

大腸がんの自覚症状は、大腸のどこに、どの程度のがんができるかによって違います。がんに特徴的な症状はなく、無症状で、検診の便潜血で陽性となり、大腸がんがみつかることもしばしばあります。ただ便潜血陽性となる大腸がんは半数程度とされており、それらの多くは進行がんのことが多く、50歳を過ぎた方、とくに以前と比較して便通異常を認める方は一度は大腸カメラを受けることをおすすめします。

診断

大腸カメラ(下部消化器内視鏡検査)につきます。またポリープが大きくなって癌化することも多く、ポリープがある方は早期に内視鏡治療が必要です。

治療

早期大腸がんは内視鏡治療および縮小手術(開腹手術、腹腔鏡手術)、進行大腸がんはステージにより異なりますが、一般に外科的切除、化学療法が選択されます。

虚血性大腸炎

虚血性大腸炎とは、大腸の血流障害により大腸粘膜に炎症や潰瘍が発症し、突然の腹痛と下痢・下血をきたす疾患です。この疾患は、血管側と腸管側それぞれの問題が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
血管側の問題として動脈硬化や血栓・塞栓などが挙げられ、高齢者や糖尿病・高脂血症などの動脈硬化や血流低下をきたす基礎疾患を持つ方に発症しやすいといわれています。また腸管側の問題としては、慢性便秘や浣腸などによる腸管内圧の上昇が挙げられます。
好発部位は、主に左側の大腸で脾彎曲部や下行結腸、S状結腸に好発します。

症状と診断

突然の腹痛と下痢、下血で発症します。症状の経過や発生部位(左側の大腸)と、その他の出血をきたす腸炎(感染性腸炎、抗生物質起因性腸炎、大腸憩室炎、潰瘍性大腸炎、クローン病など)や大腸癌を除外することで診断されますが、注腸造影や下部消化管内視鏡、病理組織にそれぞれ特徴的所見がみられるため診断は比較的容易です。また、その重症度から一過性型と狭窄型、そして壊死型の3型に分類されます。壊死型は重症であり、緊急手術の適応となりますが極めて稀です。

治療

基本的には腸管の安静と全身状態を良好に保つための対症療法(絶食輸液等)を行います。腹痛に対しては鎮痙薬を使用します。症状が軽快してくれば食事開始可能となります。一過性型では短期間のうちに完治しますが、狭窄型では狭窄解除のために手術が必要となることもあります。基本的には良性の疾患ですが、約10%に再発するとされ、危険因子を多く有する例は再発率が高いと報告されています。

ピロリ菌

オーストラリアのロビン・ウォレン(J. Robin Warren)とバリー・マーシャル(Barry J. Marshall)により発見されたヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)菌は、胃に生息する細菌で、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃癌などと密接な関係のあることがわかっています。この菌の発見で、彼らは2005年、ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。ちなみに胃潰瘍の約70〜80%、十二指腸潰瘍の約90%に関わっていると考えられています。日本人を対象にピロリ菌感染の有無で長期間経過を見た報告では、感染者だけに胃癌が見られましたが、感染者全員が胃癌になるわけではないことから、食塩、食事内容、体質など様々の因子が発癌に関わり、ピロリ菌が直接胃癌を起こすのではなく、胃癌のできやすい環境になるのではと解釈されています。
2013年2月より、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎全体に保険適用が可能となりました。
ピロリ菌

感染状況と感染経路

ピロリ菌には日本人の約60%が感染しているといわれていますが、感染は衛生環境と関連しています。感染するのは幼少時で成人ではほとんど感染しません。したがって日本では最近の衛生環境の改善で、今後日本でも感染者が減少すると期待されています。

診断

・血液や尿で測定する抗体測定法
・尿素を内服してその前後で吐いた息を採取して調べる呼気試験法
・便中のピロリ抗原測定法
・内視鏡で採取した組織をもちいて、顕微鏡で鏡検したりピロリ菌のもつ酵素反応を利用する迅速ウレアーゼ法
当院では血液の抗体測定もしくは呼気試験を行って診断しています。

治療

健康保険による除菌治療が認められています。
治療はプロトンポンプ阻害薬と抗菌剤2剤(アモキシシリン、クラリスロマイシン)を1週間内服します。プロトポンプ阻害薬で胃酸の分泌を抑えておいてから抗生物質でピロリ菌を除菌します。使用される薬や似通った薬、特にペニシリン系の薬にアレルギーのある方は、この方法では除菌できませんのでご相談ください。
この方法による除菌成功率は約70-80%と言われています。除菌治療が不成功であった例には、抗菌剤を変更して再治療を行うことで多くの例で除菌に成功します。また、除菌療法の薬を服用中、軟らかい便や下痢、口内炎、味覚異常などの副作用が約10%の人にみられます。症状の軽い場合は、そのまま除菌療法を続行しますが、発疹、発熱、強い腹痛、血便など、症状がひどい場合はご相談ください。
除菌成功すると、胃潰瘍の再発リスクや胃癌リスクは減ることが確認されていますが、除菌治療を中途半端でやめたりすると、ピロリ菌が薬に対して耐性をもち、次に除菌しようと思っても薬が効かなくなるおそれがありますので、必ず医師の指示通りに薬を飲むことが必要です。 また、除菌後に逆流性食道炎が新たに発生、または増悪する方が10%前後いるという報告や、肥満やコレステロール上昇など、生活習慣病の出現が危惧される病態の発生も報告されていますので、注意しましょう。
未感染の方と比較すると胃癌リスクは依然高いので、定期的な内視鏡検査をおすすめします。

慢性胃炎

慢性胃炎とは、胃内視鏡検査で胃炎の所見が見られる場合や、上腹部症状を訴える例が慢性胃炎と診断されます。

原因

内視鏡で見られる慢性胃炎は、ほとんどの慢性胃炎はヘリコバクターピロリ菌の感染によって起こることが明らかになりました。慢性胃炎症状の出現原因はさまざまな因子が関与するとされています。

診断

胃内視鏡で診断することができます。また、いわゆる胃炎症状(胃の痛み、お腹の張り、圧迫感など)を訴える例も慢性胃炎と診断されます。またこの中には、器質疾患(潰瘍など)がないのに症状があるわけですから、胃の機能の障害が関与しているのではないかと考えられ、機能性ディペプシアと呼ばれるようになりました。

治療

胃炎症状は生活の質を低下させてしまうため、治療はこの症状の改善を目指して行います。
胃粘膜を保護する薬、胃酸を抑える薬、胃の運動を調節する薬、ストレスが関与していると考えられる例では、抗不安薬、抗うつ薬が処方されます。また、機能性ディスペプシア例ではそれに対する治療を行います。