産業医研修会 肥前精神医療センター 曾田千重先生
本日14:00~18:00まで産業医研修会に参加してきました。前半は発達障害、後半はバイオテロのお話でした。発達障害の患者さんは小児が主体と思っていましたが、診断されず、大人になって、職場に対応できず、発見される方がおられ、診断までに10年以上かかっている人たちの話に驚きました。門外漢な分野でしたが、比較的頻度が高く、慢性疾患であり、内科である当院でも知っておくべき知識と思いました。
発達障害の中でもASD(Autistic Spectrum Disorder)自閉症スペクトラム及び、ADHD (Attention Deficit Hyperactivity Disorder) 注意欠如・多動性障害のお話でした。
1:発達障害の障害特性を理解する。
ASDとは3つの困難(社会性、コミュニケーション、想像力に関する困難)で特徴ずけられいましたが、現在は3つの困難は社会性とコミュニケーションを1つに合体し、想像力に関する困難と合わせて2つの困難とされます。
社会的コミュニケーションの困難とは周囲に配慮せず自分中心の行動をとったり、ひとの気持ちや意図がわからない、冗談や皮肉がわからず、文字通り受け取るなどが挙げられていました。グループでの業務・活動が出来にくく社会人となって、問題になり診断に至る方がおられる。
ASDは多数の要因が重なって発症する。
ASDの頻度は100人に1人から50人に1人の時代で、珍しくない疾患となっている。
A,B.C.D.Eの5つの診断基準 PARS-TR
その他の特徴
感覚過敏、暑がりな人も多く、それだけで何もしゃべれなくなったりする。このことが生活へ支障をきたすことがある。
このような表面的な行動の元にある認知的特徴
①心の理論、⓶実行機能、③中枢性統合、④共同注意、⑤注意の切り替え
①心の理論
サリー・アン課題
サリーとアン2人が遊んでした。サリーはビー玉をかごの中にいれて出かけました。
その後アンはそのビー玉を自分の箱に入れました。
そこで質問。
サリーが戻ってきてビー玉を探すのはどこですか?
小学生くらいの自閉症の子は箱を探すと言う。
つまり、サリーの視点にたって考えることできない。
他の人の視点に立つ、相手の状況を類推するのが苦手。
⓶実行機能
PDCAサイクルを回すことができない。
なんでそんなことができないの?ということがある
③中枢生統合
いろんな情報からなにを取り出し、統合するのかができない
④共同注意
指さしてお母さんに見てもらうなど、体験の共有ができない
表情、視線がうまく使えない。→直観的なやり取りが困難になる
⑤注意の切り替え
興味があるとそれに没頭する。
このような側面から生活の中で様々なレベルで混乱しやすい。
二次障害
約70%は1つの、40%は2つ以上の精神疾患を並存してる
ASDの支援のポイント
刺激をコントロールする
構造化:どこでなにをいつまでするかをはっきるする
視覚化:見えるか
をするだけで全然違う。
AD/HD
認知の特性
学齢期の3~5%
7割が思春期以降ももっており、、大人まで続く慢性疾患であり
長期の支援が必要
脳機能
実行機能(6つに分かれる)
とくに抑制機能の障害が多い。衝動的行動、
報酬系のシステム障害
大人で初めてADHDの診断がつく患者さんがいる。
成人AD/HD 20代では男女ともに2%程度、若いうちは男が多いが年齢が上がるとともに
男女差がなくなる
成人期のADHDを疑うサイン
・忘れっぽさ
・記憶できない
・眠い
・意欲のなさ
・頻回の転職
・じーとしていられない
・気分の易変生 など
基本的な特性に準じた環境調整、対応調整が重要
①実行機能障害に対しては短期目標の設定、スモールステップの実行を繰り返す
⓶物事を整理しやすくする構造や道具、ルーチンワーク化、メモのTO DO リストの活用
2:発達障害の人の身体的問題の特徴と診療上の配慮
ASDでは身体的並存症
・てんかん(8~21.4%)
・胃腸障害 (9~70%)、慢性便秘、逆流性食道炎、過敏性腸症候群
この胃腸症状の為に問題行動が起こることがある。
・睡眠障害(53~78%)
・肥満
・感覚過敏/鈍麻
(周囲からの情報も参考にしながら診療を行う必要がある。
対応の留意点
・診察前の準備
当事者の特性や困りごとを前もって周囲からとる
・診察間の留意点
静かな環境の準備、必要な情報は視覚化して伝える(絵カードの利用等)
3:発達障害の人の精神的並存症と治療の原則を知る。
ASD児の約70%がなんらかの精神科的並存症があり、精神科的並存症の評価をルーチンで行い、介入すべき並存病変が何であるかを明確にする必要がある。
逆に並存する精神科的並存症の問題を主訴に医療機関を初診するケースがある。
4:発達障害の人への薬物療法の基本原則を理解する。
ASDにはリスパダール、エビリファイに適応がある。
5割程度の有効率、効くものは初期用量で2W程度で効果がみられる。このため必要最小量を模索する必要があり、効果ないものを見極めること。
副作用で体重増加がよく見られる。
ADHD
コンサーター、ストラテラ
治療の目標:第一に障害受容をつうじたほどほどの自尊心の形成、第2にADHD特性を踏まえた適応性の高いパーソナリティの形成
5:ケアとしての就労支援
・刺激の呈示の仕方の工夫
ワーキングメモリーが少ない→情報量を少なくする、視覚的構造化(図や絵を用いる)
言語理解が困難 →文章を短く簡潔に
・対応の仕方の工夫
言語理解が苦手 →復習・繰り返しを多く、適切なヒント
気持の理解が苦手 →身体の反応など生理的な症状から考える(頭痛、不眠など)
ASD当事者から
・感覚過敏があり、時に感覚過敏発作(光が急にまぶしくなり物がみられなくなる)がある。
・フラッシュバック(実際にいじめで言われた事の幻聴はASDで頻繁に起こる 『死ね』『ばか』『うざい』など)があり、統合失調症の幻聴・妄想とは異なる
参考文献
大人の発達障害(アスペルガー症候群・ADHD) シーン別解決ブック
司馬理英子 、主婦の友社 2018