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学術講演会(近年の肝がんの傾向)

10/28に恒例の学術講演会が創生でありました。この会は私の出身母体であります久留米大学消化器内科(旧2内科)の医局在局中の先生方のご講演を拝聴できる会です。まずはひらまつ在宅療養支援診療所の井本誠司先生から在宅における認知症診療についてのお話でした。お薬による認知機能低下のリスク、認知機能改善薬の使い方、認知症診断のエッセンスをコンパクトにご講演頂きました。とくに睡眠の大切さも強調されていたことが心に残りました。

次に久留米大学消化器内科初の女性教授である超音波診断センターの黒松亮子先生のご講演でした。黒松先生のお話は近年の肝がんの傾向という内容でした。私が勉強になった点を書き記します。

・来年には非B非C型(NBNC)の肝がん患者数がC型肝がんを越す勢いで増えている。

・NBNC肝がんのうちアルコール性50% NASH 30%、

・NASH(非アルコール性脂肪肝炎)の LC(肝硬変)では発がん率は0.1~0.2%

・久留米大学消化器内科では最近の傾向として肝がん治療を受ける患者さんの肝機能がよくなっている。Child A(肝予備能が最もよいグループ)が8割になっている。

・さらに肝細胞の炎症を表す、AST/ALTがともに30以下の人は18%に見られた。6割は50以下である。つまり従来の肝機能検査では正常もしくは軽度の異常にとどまる患者さんが多い。

・一方以前は肝がん診断時にstage Iで見つかる人が増えてきていたが、最近stage Iが減ってきていて、進行がんが増えている。

これらのことはNBNC肝がんが増えたこともあり、従来と異なりハイリスクグループの設定が困難になってきていることを表していると思われる。

・NBNC,(アルコール、NASH)、SVR(C型肝炎ウイルス加療でウイルスが排除できた)後の発がん、血液検査では肝機能異常が軽度の方、女性、高齢者の進行がんが増えるのではないか。このような方々の拾い上げに従来のAFPは効果が低い可能性がある。

・ハイリスクの設定の中にPLT(血小板)低下に注目すべき (20万ではなく15万でチェックすべき)

・エコーで脂肪肝だけでなく、繊維化が疑われるものはとくにfollow upが必要(半年に1回)

・NASH LCはメタボリックとの関わりがあるので問診が大事である。

・NASHを見つけるためにはエコー、高周波プローブで肝表面の凹凸をチェックすること

・C型の加療歴を言わない患者さんも多く、SVRでは肝機能を正常化しているので、問診で確認する必要がある。

・高齢者への肝がん治療について:80才以上では1年以内の他病死が多い。感染症、血管障害、腎障害等多く、合併症のコントロールが必要であるとともに、肝がんの治療については十分なICが必要。

・肝がん患者では、アルコール起因性と思われる患者さんが増えている。

・エコーで脂肪肝、PLT低下があれば肝機能異常がなくてもUS followが必要

プライマリケアを実践する立場の私としては、生活習慣病管理の中に肝臓のフォローにも気を配る必要性を再確認させていただいたとても有意義な時間でした。黒松先生は同じ医局の1学年上の先生で学生時代はバトミントンでならした先生でした。女性教授としてではなく、久留米大学の看板教授としてますます輝いていかれることと思います。

2017年10月29日