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丁寧に考える新型コロナ(岩田健太郎先生著)を読んで

新刊の岩田健太郎先生の『丁寧に考える新型コロナ』を読みました。

その道のプロのお話は得るものも多くためになりました。以下私なりの要旨を記します。ご興味のある方は是非本書のご一読をお勧めします。

・『なぜ日本では(第一波の)感染者数も死亡者数も少なかったのか』に関して

日本人の衛生意識の高さ、マスク着用率の高さ、協調性を重んじる国民性など自画自賛の情報がネットではあふれていますが、その前に日本だけ少なかったわけでもないことを明示されました。

国別の単なる感染者数の比較、人口100万人あたりの感染者数の比較、一方人口当たりの感染者数が少ない国の比較から決して日本だけが感染者数が少ないわけではないこと。

感染者数の比較に関してはそれぞれの国の検査体制の差もありますので、人口当たりの死者数での比較が重要とされました。その上で欧州・南北アメリカ大陸で死亡リスクが高くアジアの多くの国で低いことが示されています(世界で最初に感染拡大をした中国でさえ、その死亡率は低いことに驚きです)。その上で『日本だけが特化して新型コロナウイルス対策でうまくいった』と断言するデータはどこにもない。またアジア諸国、オセアニアの国(オーストラリア、ニュージーランド)が欧米諸国よりも感染対策が上手くいったのは事実である。しかし何故かという疑問に対しての著者の考えは『単純にスタート地点が違っていたから』というものです。患者が少なかった。これが日本の対策が上手くいった最大の理由とされています。確かに各地で散発的なクラスターが発生しましたが、それを追跡、捕捉することに成功し続け、プリンセス号は単に船内に隔離していたから船外に感染が拡大しなかっただけである。一方ヨーロッパ、アメリカでは初動が遅れ、スタート時点で大量の感染者が発生していたということがあげられています。

つまりアジアの文化、風土、歴史は関係なく、最大の要因は『運がよかった』ということと述べられています。

・PCR検査について

 PCR検査のキャパシティとPCR検査の実施は別問題であること

PCR検査を火災報知器を例えとして、火災報知器はどこでも必要なのだが(キャパシティ)、それをどこでも鳴らすのはナンセンス(実施は感染者が多ければ沢山する必要はあるが、感染者が少なければ検査そのものが不要)ということは理解できました。

一般にPCR検査の感度は70%と言われます。つまり10人の感染者のうち7人しかPCRでひっかかりません。3人は感染しているのにPCRではひっかかりません。これが偽陰性です。つまりウイルス量が少ない場合は増幅しても一定数にならず陽性とならないことは理解できるかと思います。一方疑陽性とは感染がないのに陽性になってしまうというものです。ウイルスがいないのに陽性になることはあるのでしょうか?これは検体混入や過去の感染ですでに死んでいるウイルスを拾ったりなどの可能性があるようです。最近では体操の内村航平さんが疑陽性だったことが思い出されます。このように万能でないPCR検査をやるべきとか絞ってやるという議論はまずその前提条件を考えずに議論をすることはナンセンスということです。

・日本はどうしたら第2波(現在は第3波)に対応できるのか?という提言

『水』がコップ1杯のときはなんでもなく、バケツ1杯でもどうということはないが大雨、洪水、台風や津波になると甚大な被害をもたらす『水』同様、コロナの問題はその『量』に大いに依存する。よって大事なのは量を増やさないこと。つまり流行早期を見逃さずに察知する。察知して、検査して、診断し、濃厚接触者を探してモニターする。数が増える前に抑え込む。

PCR検査をするかしないかは状況が決める。必要があれば大量の検査を、流行が起きていなければ検査は必要なしとの著者の意見は納得です。そこで強調されていたのは事前確率の見極めです。そのために大事なのは患者さんを理解する能力、病歴聴取との意見は大いに納得です。

つまり状況判断=適切な事前確率の設定があってこそのPCRの検査の価値やマスクの必要性も意味も設定できるということです。この状況判断が今の医療機関に求められることと思います。そしてそのためには医療者は丁寧な病歴の聴取が感染症診療の基本と述べられていました。病歴(患者さんから教えていただく情報)が医療の基本ということは全くその通りだと大いに納得しました。

また感染者の発生を抑える方法は『感染経路の遮断』が一番大切で、その方法としてはマスク、3蜜回避を始めとするソーシャルディスタンス、ドアノブの消毒等繰り返しTVなどで言われていることと変わりません。私達にできることはまずは状況判断、佐賀市では現在コロナ感染の報告はわずかです。この状況で過大に恐れる必要はありません。『寒気がするから、微熱があるからコロナではないか?』と過大に心配してPCRをする必要はないのです。むろん『佐賀市はコロナ感染は少ないから大丈夫』と油断するのは厳禁です。佐賀から福岡に通っている方々も沢山いますから、福岡での感染拡大が拡がれば佐賀でも感染が拡がることは考えられます。しかし今はソーシャルディスタンスを常に意識した生活を送っている限りは現在の佐賀市でコロナ感染リスクは極めて低いという事実をしっかりと理解しておけばよいと思います。その中で微熱、咳などの症状がでればまずはかかりつけ医へ電話でご相談ください。

野村克也さんは幾多の名言を残されましたが、『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』という名言があります。日本を含めアジア諸国は運もあり、前半は不思議の勝ちをしたのかも知れませんが、現在のコロナ感染の急速な増加は、ある意味では負けているのかもしれません。それには理由があるはずです。基本に立ち返って無意味に恐れるのはなく正しく恐れる必要があります。いつも書いていることですが、不幸にも感染してしまった方々へのバッシングは厳につつしみましょう。明日は我が身です。

2020年11月23日
今年も菊を頂きました。

開業して4年が過ぎ、定期的に来ていただく患者さんも少しずつ増えてきました。そんな患者さんたちにときどき頂き物をします。ピーマン、ラッキョウ、玉ねぎ、お米など、これがまたおいしいのです。職員みんなとありがたくいただいています。最近は趣味で育成されている菊を頂きました。昨年もいただきましたが、入り口に置いていますので、ぜひ受診の際に見て頂ければと思います。こんなときに開業して地域のかかりつけ医という仕事を始めてよかったなぁと思います。頂き物をしたからではなく、このクリニックが地域の皆さんに少しずつ受け入れていただいていると実感するからと思います。

話は変わりますが、先日のためしてガッテンでリモート会議が盛り上がらないという話題がでていました。その際重要なのは、画面と目線が違うということと、話を聞く方のうなずきが足らないというこがあげられていました。無意識のうちにする手の動きもコミュニケーションには大事というお話もありました。『相手の目を見て話しなさい』とは子供のころから言われていたことですが、うなずきなどのリアクションがいかにコミュニケーションに大事なことかということを教えていただいたように思います。医師会が現在の医療は対面が基本で、オンライン診療は例外的なものと位置ずけているのは、対面でえられるものが多く、またそれが患者さんの満足度にもつながるという考えもあるものと思われます。しかしWith コロナの今は、今後の診療スタイルも変わらざるを得ない部分もあると思います。

地域の皆様に少しずつ受け入れていただいていることに安住せず、今後も地域のニーズに可能な限り答えていけるように努力したいと思います。

2020年11月14日